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びんかんでなにがわるい

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クロスオーバー1

 彼女、十聖(となし ひじり)の朝は早い。
 別段そこまで早く起きる必要などないと思われる生活なのだが、それでも早く起きるのは彼女の性格ゆえなのだろう。
 そうして早起きしてやることといえば、まずは身だしなみを整えること。顔を洗い、歯を磨き、着替えを済まし、眼鏡を装着。視界がクリアになったところで髪を三つ編みして整え、鏡に映った自分を直視できるレベルになって、そこから朝食の準備に取り掛かる。化粧等はしない。嫌いだからという理由が大半を占めてはいるだけでそれ以外の理由はほとんどないといえる。着飾る趣味がないといえばそれもあるのだろうが、年頃の娘としては少々枯れた部分ではあるかもしれない。
 もっとも、化粧など必要としない外見であることは自分以外は認知しているところである。
 緑の黒髪という表現がそのまま当てはまるほどに美しい髪。絹のように肌理細やかな肌は瑞々しく、均衡の取れたプロポーションは女性であれば誰もがうらやむものであろう。
 事実、彼女が歩けばすれ違う人は誰もが一様に振り返る。
 もはや歩くプラスステータスの塊のような存在であるが、本人はそれを有効活用するどころか、自覚しているかすら危ういところである。
 さて、完璧主義者である聖は、早朝五時だからといって朝食の準備に手を抜くなどということはしない。が、朝からそれほどお腹に入れられるほど強靭な胃袋を持ち合わせていないために、結局は簡素なミルクとパンに野菜を少々といったところとなる。
 数十分かけて食べ終わり、食器をすぐさま洗い、そのまま再び歯を磨く。
 時間はそろそろ六時になろうとしているが、真冬の今日という日は未だに朝日は顔を出していない。掃除でもできればいいのだが、早朝すぎるために選択肢から排除。
 だとしてやることといえば、誰よりも早く学園へ行くということだ。
 この時間帯に出て行けば人はほとんどいないからという理由からの行動である。
 別段人間嫌いというわけではないが、人ごみが好きではない。普通の登校時間に合わせて行動していれば、当然校庭から廊下から教室から行動するのに支障がでてしまうこともある。そうなってしまえば嫌でも人にもまれることになる。それだけは避けたいと思うのならこの時間帯に起きるのは当然のことになる。もっとも、既に日課になっているこの生活を苦痛だなどと思うことなどなかった。

 朝起きて、学園へ行き、帰宅し眠る。
 時折、この枠組みから外れたことをしなければいけないときもあるが、それはそれでまた一つの枠の内のこと。
 そんな毎日が続くことに疑問を持つこともなく、そして大きな期待もしていなかった。
 誰もいない道を歩く。呼吸をするたびに白い息が生まれては余韻も残さずに消えていく。未だ朝日は昇っておらず、人のとおりなどまるでない。朝を告げる鳥さえも目覚めていない。

 「……ふぅ」

 足を止めて一つため息をついた。
 理由は特にない。ただ、なんとなくついた。
 変わらない毎日がやってきてそれをただ繰り返す。それを不満に思ったことはない。やれることをやろうとしているし、やりたいこともそれなりにやっている。
 不満などあろうはずがない。
 とめていた足を再び動かして、薄暗いながらも先に見えてきた学園を見上げる。
 相変わらず、その姿は実に仰々しい。
 人をその中に収めるためにある建物の癖に、どこか人を拒んでいるようにさえ見るのは、いささか斜に構えすぎだろうか。
 自らのものと主張するように立ち並ぶ、聖の頭一つ上の高さにある塀を一瞥して少し進むと、入り口である校門に到着する。当然のごとく厳かな門は閉められていた。

 (まずは用務員室に行って挨拶を)

 が、聖はまったく気にすることなく、門の横に備え付けられたもう一つの扉をあける。その扉の少し上には、『私立謳歌学園』の文字。
 見慣れた名前を改めて確認して、門をくぐった。
 門から校舎までは大きな道が一直線に通じている。日が昇り、それからもう少し時間が経てば、その道は生徒で溢れるのだが、今は聖一人だけ。
 大きな門と塀に囲まれた閉鎖されたような空間は、世界にたった一人取り残されたような錯覚を受ける。

 (大げさ、か)

 少しずつ青を取り戻してきた空を仰ぎながら、そんなことを考えたこと自体がどこか自分ですら意外で、自然と笑みがこぼれた。
 気を取り直して息を軽く吐き出す。何はともあれまずは日課である。
 頬にかかった髪を軽くはらい、止めていた足を踏み出そうとして、止めた。

 「え……?」

 思わず声が出ていた。それほどま意外な出来事だったのだ。
 この時間、この場所で、誰かの姿を見るということが。
 聖のほんの数メートル前に女性が立っていた。何をしているというのでもなく、強いて言うのなら校舎を見上げているのだろう。長い長い髪を風に遊ばせながら見上げるように首をかしげている。

 (学園の……生徒……?)

 記憶をたどってみるが、これほど長い髪の生徒には心当たりがない。さすがに全員を覚えているわけではないが、特徴的過ぎる長い髪が噂にならないとは思えない。となれば、部外者か聖の知らない学園関係者か。
 どちらにしても、声をかけないわけにもいかないと、短くため息をついて、女性へと近づいた。

 「おはようございます」
 「……?」

 無難に朝の挨拶を女性の背中へと投げかける。さして驚いた様子もなく女性はゆっくりと聖へと振り返る。暗いながらにも見えた顔立ちは、とても整ったものだった。
 
 (綺麗……だなぁ)

 憂いを帯びているように見える目元、かすかな明かりに輝く唇。たったそれだけを見るだけでもそんな風に思えてしまう。
 美人、というのはこういう人のことを言うのだな、と自分のことに疎い聖は声をかけた目的を一瞬忘れてそんな感想を持つ。
 すぐさま我を取り戻して、軽く頭を振って気を取り直す。

 「失礼ですが、学園の関係者……ではないですよね?」

 女性が身に付けているのは制服なのは間違いない。だが、ここ私立謳歌学園のものとは似ても似つかないデザインをしている。この時点で申し開きはしようがないはずなのだが、女性はその質問に応えることもなく、再び聖から視線をはずして校舎に向けた。
 思わず聖はため息をつきたくなった。もちろん抑えもう一度声をかけた。

 「何か御用があるんですか?」

 できるだけ義務的に抑揚なく声を出したが、それにも反応せずに女性は一心に校舎を見上げている。
 暗くてそんなに見えもしないはずなのに、それほどものめずらしいものでもないはずなのに、何が楽しいのか女性はただただ見上げている。

 (校舎に、何かあるとは思えないけど)

 そう思いながら、ついつい見上げてしまうのは人の性というものだろう。だが、見上げたところで聖には特別何かを感じることはなかった。
 謳歌学園の校舎など、いつも見ているしそれが変化することはない。

 「……学校、学園」
 「え?」
 「嫌いじゃないの」

 何を言っているのか一瞬理解できずに女性の顔に視線を向けると、初めてそこで視線が交わった。
 そして、女性は少しだけ笑うと、きびすを返して歩き出した。

 「ぁ……」

 何かを言うべきなのだろうかと考えたものの、女性の言葉に何を返すべきなのかまるで思い浮かばず、結局、黙って背中を見送っていた。


 
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